着物の保管に最適なのは、昔から「桐のタンス」と言われています。桐は湿気に強いのが一番の理由です。つまり湿気の多い雨季は、タンスが空気中の湿気を含んで膨らむために、引き出しがピシッと締まり、中の衣類を湿気から守ってくれるのです。

逆に乾燥している冬の時期などは、自然と収縮して通気を良くしてくれます。一昔前は、嫁入り道具の一つに桐ダンス一棹(ひとさお)とも言われました。
でも究極のすごいところは・・・火事になって、桐ダンス本体は燃えても(犠牲になっても)中の着物を守る!
これですよね!!

本当にあった、火事の現場でのできごと

数年前に、私の友人の自宅が火事にあいました。自分の家からの出火で、幸い家族に怪我はありませんでしたが自宅は全焼。
新聞で火事のニュースを知り、慌てて友人の家に行くと、二階建ての家は見る影もなく、柱が数本真っ黒になって残っているだけでした。車も2台、焼け焦げていて、見るも無残。

お隣の方から、彼女一家が近くの実家に身を寄せていると聞いたので、その足で実家を訪ねてみました。実家にいた彼女は、「家は保険に入っているから大丈夫。でもね何も持ち出せなかったの。アルバムとか思い出の品みんな燃えちゃって・・・」と意気消沈の様子。
さすがに、私も返す言葉もなく、その日は帰ったのです。

あの真っ黒な塊が桐ダンス?

ところが数日経つと、彼女から連絡がありました。

「信じられない!私の振袖や娘の七五三の着物が無事だったのよ」

と電話の向こうで明るく元気な声が聞こえてきます。驚いて、さっそく実家に行ってみました。

少し焦げくさい臭いは残っていますが、彼女が独身時代に着た、見覚えのある振袖やお嬢さんの着物、私の結婚式に着てくれた訪問着や帯が重ねられています。でも、家は全焼・・・柱しか残っていなかったハズ。そう思っていると、「焼け跡行った?二階の柱の影に黒い塊があったの覚えてる?」と彼女が言います。

そう言われれば、何だか辛うじて二階の床らしき場所に真っ黒い物体が・・・。

「その塊、私の嫁入り道具・桐のタンスだったの」

とのこと。
「消火の水を吸っていたので、完全には燃えなかったのね。消防の方に下ろしてもらったけど、中々引き出しが開かなかったのよ。家も全焼したし、タンスも真っ黒なので、期待していなかったんだけど、やっと引き出しを開けたら、中の着物は無事だったの。凄いね!」
と言いながら、泣き始めてしまいました。

家族の思い出が残っていたのは、何より嬉しい・・・。火事の後も泣かなかった気丈な彼女のうれし涙に、私も感動です。

桐が火事に強い理由

桐は他の木材と比べて、熱の伝導率が小さいと言われています。
つまり炎に包まれても表面が燃えるだけで、なかなか燃え広がらないようです。

もちろんいずれは燃えてしまいますが、その前に消防車の水が桐のタンスに当たれば、水を吸収するので引き出しは密閉され、燃え広がることもなく、最後までタンスの中の品物を守る・・・。これが昔から「桐ダンスは火事に強い」と言われる由縁なのですね。
自分は燃えてしまうけれど、中の着物は死守するなんて、凄いです。

手を抜かない片づけが、着物の明暗を分けました

とは言っても、桐のタンスに入っていたすべての着物が大丈夫だった訳ではなかったそうです。滅多に着ない振袖や訪問着は「たとう紙」に入れて保管していたけれど、頻繁に着るお気に入りの小紋は、畳んだままタンスに入れていたとか。
これは、燃えなかったけれど、タンスの隙間からススが入り込んで、黒ずんでしまったようです。クリーニングをお願いしても、業者さんに「ススの汚れは落ちません」と言われてしまったとのこと。
「さすがの桐タンスも、ススは無理なのね~。ちゃんと、たとう紙に入れておけば良かった」と彼女は言っていました。

先人の知恵が実際に活かされた事例を目の当たりにして驚きました

「桐ダンスが火事に強い」とはよく聞く話ですが、実際に身近にそのような体験をした知人がいて体験談を聞かされると、改めて桐ダンスの凄さを思い知らされます。
昔からの知恵は決して無駄ではないのですね。


この記事を書いたひと

cyobicyobi
cyobicyobi
仕事で着物を着る機会が多く、気が付くと着物ファンに。
日本の伝統文化のひとつである着物は、着ることはもちろん、観賞しても楽しく飽きることがありません。
着物の良さを、少しでも多くの方にお伝えできればと思っております。